2024年12月~2025年1月にかけて ギラ国有林(Gila National Forest)で行ったメキシコオオカミ調査活動内容について報告します
野生のメキシコオオカミの遠吠えの録音に成功した。
Lucuses(ルーカシーズ)は今冬、アメリカ合衆国内のギラ国有林(Gila National Forest)にてメキシコオオカミの現地取材を実施した。
12/26 東京羽田空港を13時頃に飛び立ち、同日の朝6時にロサンゼルス空港着。レンタカーを借りて、中継地のフェニックスをめざす。国有林内は不整路がほとんどで、ラングラーやピックアップトラックのような車が妥当ではあるが、今回は先立つものがないため国内でもよく見かける普通のCセグメントSUVである。16時頃にはフェニックスに到着し、スーパーマーケットで一週間分の食料類を補給して夕飯に前日クリスマスの売れ残りと思われるチキンとケーキを買った。
12/27 フェニックスのホテルから出発し、ギラ国有林前最後の補給地イーガーで給油を行ったのが14時ごろでそこからほどなく不整路エリアに案内される。時速30マイルで3時間の道のりだが、道が悪く現実的に30マイルは出せない。そうこうしているうちに日没となった。狩猟帰りと思わしきピックアップトラックやバギーとすれ違うために停車する。サンルーフから怖いほどの星が見える。国有林のど真ん中で100㎞などという単位で周囲に民家のようなものがなく、光源が一切ないのだ。もちろん電波もない。初日のキャンプサイトに到着したのは21時頃であった。
12/28 日の出とともに目を覚ましキャンプサイト周辺をドローンで偵察する。キャンプサイトは山麓にあり、人の手の加わった牧草地帯と人の手の加わらない森林の境に位置する。3000M前後の山でも森林限界以下になるため山頂まで木に覆われている。周辺環境をさらに探るためキャンプサイトから伸びるトレイルでMt. Blackの登山を開始した。トレッキングコースはなだらかな登り坂が終始続き、鎖場のような場所は無く、馬で登れるようなルート選択をしていることがうかがえる。トレイル周辺にオオカミの痕跡はなく、理由として水場がないことが考えられたため、このキャンプ地での探索を打ち切ることとした。ギラ国有林内は地図上の川はあまり当てにならず、水無し川であることが多い。
12/29 水場を求めて地図上の池を目指して移動を開始したが、その池も干上がっていた。しかしながらシカなどの痕跡は多いため干上がった池を見渡せる位置をキャンプ地としてエリアの監視を行ったが、特段の成果なし。
12/30 地図上の次の池へ移動。漸く水場を発見した。池のほとりをドローンで探索したもののオオカミの足跡など痕跡は無し。さらに移動して次の池を目指す途中で初めて水の流れる川に遭遇した。次の池に期待が高まるが、ここにも水はなかった。さらに移動して水のある池にたどり着いたところで日没となった。
12/31 朝4時オオカミの遠吠えで目を覚ました。日の出まで2時間以上ある暗闇のなか確かな遠吠えが聞こえた。声の聞こえた方角を探索するとオオカミが食い荒らしたと思われる残骸を発見し、そのエリアを次の日のキャンプ地とした。尚、このエリアの地形の影響か、寒波の影響かこの日から連日最低気温が氷点下15℃となった。
1/1 夜間の遠吠えは無し。周辺調査で新しいフンや痕跡を発見した。日没後1時間程度でこの遠征二回目の遠吠え。録音に成功。非常に近い距離だったため遠吠えのした方向を捜索したが姿をとらえる事は出来なかった。
1/2 朝の遠吠えは無し。この日は獣道と人のトレイルが合流した道を探索した。比較的新しいオオカミの痕跡が多く、頻繁に往来していることが窺えた。ここにセンサーカメラを設置することで確実に姿をとらえるとともに、行動の時間帯を確認することができるだろう。この日を最後にギラ国有林を離れた。
その帰路、アリゾナ州・シボラ国有林内フリーウェイを走行中、メキシコオオカミらしき姿を目撃した。2024春生まれの若い個体と見えた。色味が濃いコヨーテの可能性も否定できないが、サイズや体つき、毛色からはメキシコオオカミであると考えられる。一瞬だったため確証は持てない。
フェニックス動物園、リビングデザート動物園を2日で回って帰国した。
フェニックス動物園は今年の夏に訪問していたため、メキシコオオカミの夏毛と冬毛の差を同一個体で確認できた。
リビングデザート動物園では珍しい隻腕のオオカミに出会った。
それぞれの園でコヨーテ、タテガミオオカミ等日本で観ることが出来ない大型のイヌ科動物にも出会う事が出来た。
この遠征での知見として一般的にオオカミは薄明薄暮性とされているが、ギラ国有林のメキシコオオカミはほぼ完全に夜行性の生態を獲得しているであろうことが推測できた。これは想像だが、最大の脅威であった人の活動時間外である夜間に活動していた個体が生き残ったため全体として強い夜行性を獲得したと考えられる。今後センサーカメラを持ち込み、メキシコオオカミの活動時間を確認したい。
また活動にあたって、現代人が十分な栄養も電気も電波もなく氷点下15度の環境に長時間晒されると想像以上に精神力が削られることも理解できた。正常な判断力を失うことは様々な危険があるため、今後継続的に活動する上での課題である。
最後に
今回の遠征は、初めて訪れる森の中、まさに五里霧中で情報が皆無、砂漠で針を探すような捜索活動だった。そのため、最後まで痕跡すら発見できないだろうと覚悟していた中、オオカミの痕跡を見つけ、遠吠えまで録音できたことは、まさに幸運の極みである。まるでこれまでに出会ったオオカミのご加護のような、スピリチュアルな思いすら抱かせる体験だった。 このような厳しい活動を乗り越えられたのは、Lucusesの活動を応援してくださる皆様や、オオカミを愛し、私たちの投稿を楽しみに待ってくださる皆様のご支援があってこそだ。心より感謝申し上げたい。
また、悪路をトラブルなく走破し、旅を支えてくれたレンタカーのROGUE、そして氷点下15度の過酷な環境でもノントラブルで撮影を可能にしてくれたEOS R3にも深く感謝したい。
END
録音した遠吠え音声→
2025冬の遠征 計画中 続報をお楽しみに!!